全国予選の決勝に敗れ、東京第2代表が決まったとき、指揮官は「負け惜しみ」と前置きしてから不敵に言った。「負けた悔しさを持って全国に行けるチームというのも、なかなかないと思うので」。2年前のジュニアマック(4年生以下の都大会)はベスト4、昨秋の都新人戦は準優勝と頂点には立っていないが、どれも想定内の通過点。東大出身の指揮官と、3年計画を歩む6年生たちは、虎視眈々と勝負の夏を見つめる。粒ぞろいで、野球レベルも一体感も申し分なし。過去45年の全国大会で、東京勢の最高は銀メダル。来たる8月の四国・愛媛で、それも塗り替わるかもしれない。
(写真&文=大久保克哉)
縦横無尽に賢く根を張る“三年草”。夏の四国でついに咲く花

レッドサンズ
初出場=2010年
最高成績=3位/2023年
【全国スポ少交流出場】
なし
【都大会の軌跡】
1回戦〇4対3オール麻布
2回戦〇12対0南勝ホークス少年野球部
3回戦〇9対0南小レッドイーグルス
準々決勝〇10対1国立シャークス
準決勝〇7対3深川ジャイアンツ※レポート➡こちら
決 勝●3対8船橋フェニックス※レポート➡こちら
百戦錬磨の佇まい
120㎞のスピードボールにたじろがず、平然と自分のスイングができる――。そういう小学6年生は今の時代、どれだけいるだろうか。難関の全国大会「小学生の甲子園」でも、少数だと思われる。
レッドサンズが突出しているのは、6年生の15人全員がそういう域にあることだ。それも偶然ではなく、必然で。

全国予選の決勝(※レポート参照)では、開始1球目から117㎞の速球を見せつけられ、救援投手はさらに速い121㎞を何球も。対するレッド打線は8安打。原川瑛仁主将(=㊤写真)は長打を3本連ね、途中出場の加藤光志朗も逆方向へ打ち返している。またサインプレーも、普通に行われていた。
おそらく、6年生の誰が打席に立っても、剛速球に腰が引けることはあるまい。何しろ、この世代は3年生のときから「東京」に安住せず、東海や関西方面などの全国区の強豪とも手合わせを繰り返してきたのだ。

全国予選の準決勝は先発全員安打。㊤は斉藤叶翔、㊦は園田咲生

『井の中の蛙』や『出たとこ勝負』でないのは、名門たる由縁のひとつ。それにも増して、指揮官の熱量と学習力がハンパない。
「全国大会で勝つということが、この子たちのちっちゃいときからの大目標なので」と語る門田憲治監督は全国予選後、遂行中の3年計画の手ごたえも示唆した。
「確かに、どの子も(剛速球に)気後れしてなかったですね。そういうの(強豪チーム行脚)はもしかすると、彼らの財産になっているかもしれないですね」

八番・野村咲翔㊤は中軸も任せられる。左翼手の山本駿翔㊦は、足が万全でない右翼手・齊藤とポジション交代を繰り返してカバーした

小学生は最上級生でも、生まれてせいぜい11年から12年強。人生の「未体験ゾーン」が大半で、野球においては目や耳から入る情報より「実体験」が血肉となり、ひいてはチームの武器になる。勝敗以前に、いつでも落ち着き払っているレッドサンズの面々が、それを実証している気がしてならない。

このチームの野球レベルの指標も、「対速球」はほんの一例だ。守備力や経験値の高さは例えば、走者一、三塁の場面で見て取れる。一般的に、学童野球では悩ましい局面である。

レッドは正捕手の原川主将が、全体へブロックサインを出し(=㊤写真)、投球ごとに守る8人が連動する。これを当たり前に繰り返し、全国予選の準決勝では粛々と二盗を阻止(=㊦写真)。もちろん、三走を生還させずに、だ。
昨年末のNPBジュニアトーナメントでは、走者一、三塁からの重盗に対して併殺という、ウルトラ級の離れ業もあったが、選び抜かれたタレントたちゆえだろう。レッドサンズは、そこまでの強肩ぞろいではないものの、そう簡単には1点も次塁も相手に与えない。

あらゆる局面において、次の展開も読んでの手はずが整っている。試合中の「想定外」がほとんどないから、ミスが続くこともないし、120kmにも対応できるのだろう。「みんなを信じて自分の力を出し切るだけ」と語るエースの神谷駿は、ピンチや失点はあっても自滅や大崩れをしない。同様にどの投手も出来ムラが少なく、マウンドでバタつかないあたりも百戦錬磨を物語る。

エースの神谷㊤は一番打者として打線もリード。武内㊦は全国予選で105㎞をマーク

なるほど納得!!ノック
東京都は2009年から15年間、「小学生の甲子園」の舞台となり、この期間は「開催地枠」を含めて東京から3チームが出場できた。真夏の6日間で一気に消化するトーナメント戦だけに、地の利も大いにあったはずだが、不動パイレーツの銀メダル2個が最高成績。その後にも先にも、金メダルを手にしたチームはない。

レッドサンズは、2021年から3年連続で全国出場。2022年はベスト8(=㊤写真)、翌23年は124㎞左腕の藤森一生(現・駿台学園中3年➡こちら)を擁して、銅メダルに輝いた(=㊦写真)。チーム史を塗り替えた2年間、タクトを振っていたのは門田監督だった。
「今年はご覧の通り、あんな藤森みたいな怪物はいません。だけどボク自身が経験した全国大会でも、スーパースターがいるわけでもないチームが優勝しているのを目の当たりにしてますから。それも常に念頭に置きながら、この子たちをみてきました」

父親コーチから指導キャリアをスタートして満15年。門田監督は当初から、熱心な全国大会ウォッチャーだった(※関連記事➡こちら)。大人は目や耳でもよく学べるし、東大出身の同監督には本質や普遍性を解く眼力もある。
2018年に次男・英資のいた2年生チームの監督となり、そのまま繰り上がって6年時に全国出場(2022年)。翌年もトップチームを率いた後、2024年に三男・千資のいる4年生チームの監督に。そして3年目が今日となる。

門田監督㊧と坂路友一コーチ㊨とのコンビで挑む、全国大会は2回目。前回は3年前の2023年㊦

現役の父親監督でありながら、全国区になりつつある「智将」。最高学府の頂点を経た履歴をひけらかすでもなく、ユニフォームを着れば謙虚で情にも厚い。確かな学習能力は、フィールドでも垣間見える。
象徴的なのは、試合前のシートノックだ。今でこそ、この5分間で打ちまくるノックも珍しくはなくなったが、門田監督のそれは上辺の模倣で終わらずに進化を続けている。

「人に打つんじゃないぞ、オレは打球を打ってるんだぞ!!」
ノックバットを手にした30番は声を発すると、空間のあらゆるところへ、あらゆる打球をランダムに打っていく。危険の生じないハイペースで。また終盤になると、ノッカーの隣で捕手がキャッチ&スローを反復(=㊦写真)。ヘタをすると、声出しがメインになりがちな捕手までも、5分間でしっかりとエンジンを掛けられている。ここまで進化したシートノックは、筆者は全国大会でも見たことがない。
「いかに選手たちが実戦的にボールに触れるか、というのを意識しています」(門田監督)

人と一体感を招くワケ
賢い指導者や集団の下に、選手は自ずと集まるのだろう。激しい競争がチーム力を引き上げているのも、今年の特長だ。
4年時は都大会ベスト4、5年時はBチームを編成して都知事杯の2回戦まで進出した。そして昨秋の新人戦は都準Vと、一定の成績を残しつつ、選手の出入りも多少はあった。

昨年10月の都新人戦決勝は大逆転負け㊤。今年2月のフィールドフォースカップ決勝は7人が病欠も、千葉県の盟友・豊上ジュニアーズを破って9年ぶりV㊦

他チームからの引き抜き行為はないが、移籍選手は複数。指揮官はまた、それを覆い隠そうともしない。
「うまい子が後から入ってきたからって、ポジションを横取りするようなことは絶対になくて、子どもたちには絶えず『あくまでも競争だよ!』と。そういうなかでも、各自が自分の持ち味というか、頑張れるところをみつけて腐らずに。それはホントに頭が下がります。あとは、うまい子が入ってくると全体の練習のレベルも引き上がって、より成長する子もいるんです」


成長株の一人が、門田ジュニアの千資(=㊤写真)だ。「去年の秋は10番目11番目の選手」(門田監督)だったのが、全国予選では六番・三塁で活躍が続いた。
時々の個人成績と状態から、ガチンコの勝負にはベストメンバーで臨む一方、個々に寄り添う指揮官でもある。全国予選の準決勝で勝利し、全国切符を手にした際には真っ先にこう話した。
「ボクのことを信じてきてくれたコーチ陣と保護者には、感謝しかないです。3回戦では、5年生(登録5人)も含めて全員を試合に出すことができて、準々決勝は6年生全員を。それによって、子どもも保護者も一つになって戦うというところを示せたのが大きかったかもしれないですね」

選手たちも、個々のチーム歴や立ち位置に執着していない様子。分け隔てなく励まし合い、称え喜び合う姿も大会中に随所に見られた。
新人戦では投打でフル回転した竹内勇泰はその後、ケガで長期離脱中だが一塁ベースコーチを懸命に務めている(=㊤写真)。前主将の伊藤維は背番号が変わっても、チームに尽くす姿がある。

全国予選の準決勝では、最終5回表にリードを6点に広げてから、代打の比毛陽翔が笑顔で打席へ(=㊤写真)。その背中を押した30番は、入れ代わりで打席から戻ってきた選手の頭にもそっと手をやり、言葉を掛ける姿も(=㊦写真)。


またその5回裏、救援登板でベンチを出てきた大塚結心を、内野陣はマウンドに集まったまま出迎えた(=㊤写真)。この右腕は続く決勝でも特別延長の7回表に一死から登板。二番手の武内瑛汰がつかまり、ビハインドが3点に広がっていたが、門田監督は「別に勝負を諦めたわけではなくて、彼なら抑えられると思って送り出しました」。

結果、大塚は被安打1で投げ切るも、その1本が痛恨の2点タイムリーだった。けれども、指揮官の信頼と期待は揺らいでいない。
「大塚は3回くらいから準備をさせていて、ホントはもっと楽な場面から出したかったんですけど、でももう、全国を考えたらああいう場面でもいってもらわないと。全国でも勝つ想定で、途中から投げてもらうことも当然あると思いますから」
ちなみに大塚は、チームの生え抜きで5年時は主将も務めていた。昨秋の新人戦は第2捕手で出番はほぼなく、その後、投手にも活路を見出して不可欠なピースとなっている。

二塁手の並木恒太朗㊤と、二遊間を守れる加藤はともに名手。ポジション争いは全国大会直前まで続きそう

最高峰の頂へと向かってきた3年計画も、いよいよ大詰めだ。辿ってきた一本道は、もう視界にとらえきれないほど、ずっとずっと遠くから続いている。
「ぜんぜん早かったですけど、振り返るのはまだ早い。こっからが本番だと思っているので」
全国予選後、東京第2代表の指揮官はそう言った。いつものように、大きな眼が光を受け入れて輝いていた。

【県大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6 原川瑛仁
⓪6 園田咲生
②6 門田千資
③6 野村咲翔
④6 並木恒太朗
⑤6 神谷 駿
⑥6 加藤光志朗
⑦6 山本駿翔
⑧6 齊藤叶翔
⑨6 小林大吉
⑪6 大塚結心
⑫6 伊藤 維
⑬6 比毛陽翔
⑮6 武内瑛汰
⑯5 川口大智
⑰5 篠原 到
⑱6 竹内勇泰
⑲5 生井咲汰
⑳5 畠山 佳
㉑5 小池ヤマト
㉒5 神田悠成